第一章
 
特徴2 身体及び四肢を放長させる(引き伸ばす?)弾性運動

拳譜による基準:

 (1)“虚領頂勁、気沈丹田”

 (2)“含胸抜背、沈肩墜肘”

 (3)“鬆腰圓襠,開跨屈膝”

 (4)“神聚氣斂,身手放長“


 以上の4項目の基準からわかるように、虚領頂勁と気沈丹田は胴体部の放長、含胸抜背は胸の前部を支柱に背中側の放長、沈肩墜肘は腕の放長、鬆腰圓襠と開跨屈膝は両方ともスムーズな脚の旋回ができるよう脚を特定の姿勢で放長した結果である。ゆえに太極拳における運足時には、必ず圓襠鬆腰と開跨屈膝の姿勢を保った状態で踝を旋回させて脚を廻すことにより虚実の転換を行う。外から見ると脚による纏絲勁の表現に見えるが、実質的には内部で脚の放長を促している。この一連の放長は精神を自然に奮い起こさせる作用をも持っている。ゆえに放長の姿勢さえできていれば、力任せに頼ろうとする悪い癖が発生しにくく、それがさらに自然にゆるむことや身体の放長をしやすくすることになる。そしてこの放長による弾性運動が太極拳の二番目の特徴である。

身体の放長

 上で述べたように、太極拳を練習するときに身体は放長していなければならず、全身の弾性を強化することによって掤勁を形成する段階に入ることが出来るようになる。すなわち、掤勁は弾性よりうまれ、弾性は身体の放長から生まれるということである。では、身体の各部をそれぞれどのように放長させればよいのであろうか?拳譜には以下のように書かれている。

虚領頂勁と気沈丹田――いわゆる頂勁虚領とは、頭頂?の勁を上に向かって虚にして(ゆるめて?)引っ張り、気沈丹田は気を下に沈めて丹田に入れる。この二つを合わせると、意識の上では反対のベクトルに引っ張り合うイメージがうまれる。つまり胴体部が放長する感覚となるのである。

含胸抜背――含胸とは、胸部を背骨の伸張を実現させる為の支柱とする為、胸を突き出さず、凹まさずという状態にすることである。力学上、支柱は湾曲していてはならない。この支柱をしっかりと作り出した上で背中に伸張を加えることができるかどうかが重要だ。注意すべきは、特に初心のうちに猫背と抜背を混同してはならない。これは猫背になると胸がへこみ前胸部が支柱としての用を成さなくなり、結果として背中の伸張も不能となり、弾性を発生させることができないからである。また、猫背は健康をも害することになる。

沉肩墜肘――沉肩の主な作用は、腕と肩を下に落としこみ腕と肩の連結を堅牢にするためである。腕と肩の繋がりが強固であってはじめて腕に根がはるようになる。同時に、肘を落としこむ事により肘と肩の間に放長を生じさせることができる。手と腕で螺旋形の纏絲運動を行う場合、墜肘をメインにすえる。同時に、墜肘と坐腕(手首に関する要求?)もまた肘と手首の間の放長を可能にする。よって、沉肩墜肘と坐腕は腕全体の放長なのである。

開胯屈膝の旋回――これは脚部の放長である。脚は地面の上に立っている為、放長をしようとしてもなかなか難しい。そこで、脚に対して開胯屈膝の要求をプラスする。この特定の姿勢(圓擋)のもとで螺旋運動を行うことよって虚実を変換させるのであるが、これは膝頭の旋回として表現される。このように脚を外側に廻旋させると、外側を放長させ内側を収縮させることができるのである。

 このような脚の旋回に手・腕・身体の旋回を協調させると全身の旋回となり、それが一つ一つ上昇していく。そして根っこは足(靴の部分)と脚(靴を除く部分)より発し、腰によって支配され、手指に形作られる完全一体の勁となる。

 上記4つの規定を総合的に見ると、太極拳は身体・手・足に対してすべからく放長するということを課している。こうすることで放長が弾性を生み、それが太極拳の基本の掤勁となり、さらに自然な形で精神を目覚めさせ、気合と蛮力しか使えないという病状を克服することができる。

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